障害者の離職状況、離職を防ぐためには?

1. 導入

障害者の離職と聞くとどのようなイメージをお持ちでしょうか。入社しても長続きしない、同じ部署の社員とうまくコミュニケーションがとれない、といったマイナスイメージをお持ちの方もいらっしゃると思います。 
 
 
しかし実際には、配属部署で周囲とコミュニケーションをとりながら、数年、10数年と安定して就業している方が多数いらっしゃいます。 
 
 
ここでは障害者雇用の状況を知り、障害者の離職を防ぎ、安定して就業してもらうために企業ができることをまとめました。 

2 .障害者社員の離職状況

障害者とは、障害者基本法(昭和45年法律第84号) の第二条(定義)において、「この法律において「障害者」とは、身体障害、知的障害又は精神障害(以下「障害」 と総称する。)があるため、継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者をいう。」と定められています。 
 
 
また、障害者雇用率制度においては、障害者とは障害者手帳(身体障害者手帳、療育手帳、精神障害保健福祉手帳)を所持している方をいいます。企業が障害者採用、障害者雇用の文脈でいうときは、この障害者雇用率制度でいう障害者、つまり障害者手帳を所持している方を指します。 
 
 
現在、障害者手帳を所持している方はどのくらいいるのでしょうか。 
資料1に身体障害者手帳交付大腸登載数(身体障害者)、療育手帳交付台帳登載数(知的障害者)、精神障害者保健福祉手帳交付台帳登載数(精神障害者、発達障害者)の平成23年度から令和元年度までの人数の推移が書かれています。 
 
 
ご覧のとおり、身体障害者は微減、知的障害者は微増に対して、精神障害者(発達障害者も含む)の人数は約2倍と大きく増えているのがわかります。 

資料1 障害種別の人数

(出典:福祉行政報告例、衛生行政報告例)

では、障害者の就業状況はどうなっているでしょうか。 
平14年から令和2年までの民間企業の障害者雇用の人数推移を示した表があります(表2)。平成14年の段階で、民間企業の障害者雇用者数は24.6万人(身体障害者21.4人、知的障害者3.2万人、精神障害者は平成18年からカウント(平成18年は1918人))、実雇用率は1.47%でした。 
 
 
翻って令和2年の雇用者数を見ると、民間企業(45.5人以上規模の企業:法定雇用率2.2%)に雇用されている障害者の数は57.8万人で、前年より1.7万人増加(前年比3.2%増)し、17年連続で過去最高となりました。 
 
 
内訳は、身体障害者が35.6万人(対前年比0.5%増)、知的障害者が13.4万人(同4.5%増)、精神障害者は8.8万人(同12.7%増)と、いずれも前年より増加し、特に精神障害者の伸び率が大きいことがわかります。 
 
 
実雇用率は、9年連続で過去最高の2.15%(前年は2.11%)、法定雇用率達成企業の割合は48.6%(同48.0%)でした。 
 
 
資料2 民間企業における障害者の雇用状況 

(出典:厚生労働省職 令和2年 障害者雇用状況の集計結果)

就業人数は増えていますが、一方で障害者雇用の平均勤続年数は短くなっているというデータもあります。 
 
 
資料3 障害者の平均勤続年数の推移 

(出典:障害者雇用実態調査結果報告書(平成25、30年度)(厚生労働省障害者雇用対策課)

では、障害者の職場定着はどのような状況なのでしょうか。 
資料3では、障害種別の職場定着率を入社から1年後にわたってまとめられています。 
 
 
それによれば、入社3か月時点で高い順に知的障害(定着率85.3%)、発達障害(同84.7%)、身体障害(同77.8%)、精神障害(同69.9%)ですが、1年後になると、発達障害(同71.5%)、知的障害(同68.0%)、身体障害(同60.8%)、精神障害(同49.3%)と、精神障害の離職率が大きいことがわかります。
 
 
資料3 障害種別職場定着率 

(出典:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者の就業状況等に関する調査研究」)

3.障害者の離職理由

資料4は離職の理由(個人的理由)と(仕事を続ける上で)改善等が必要な事項、つまり職場において配慮が必要な事柄をまとめたものです(精神障害と身体障害のみ) 
 
 
個人的理由の主なところでは、「職場の雰囲気・人間関係」、「賃金・労働条件の不満」、「仕事内容があわない」等が身体障害、精神障害ともに上位にきます。 
 
 
一方で、「症状が悪化した」、「障害のため働けなくなった」という理由も2割を超えます。 
 
 
それに対して、改善が必要な事項としては、「調子の悪いときに休みを取りやすくする」、「コミュニケーションを容易にする手段や支援者の配置」、「能力が発揮できる仕事への配置」、「短時間勤務といった時間の配慮」等が挙げられています。 
 
 
資料4 障害者の継続雇用の課題となる要因 

(出典:厚生労働省職業安定局 障害者雇用の現状等)

4. 障害者雇用を取り巻く環境

そのような現状で、2019年に端を発した新型コロナウィルスは、障害者だけでなく企業の働き方を大きく変えました。 
 
 
業績の変化は企業の業態や主業務の変更、新しいことへの取り組みを促し、働き方では、社員のテレワークを押し進めました。業務の自動化、電子化が進み、社員間でのコミュニケーションが大きく減ったことは否めません。 
 
 
この変化は、障害者にマイナスの影響が大きくなりました。業務面でいえば、「これまで行っていた仕事が減った、またはなくなった」「新しい仕事が用意できない」。マネジメント面でいえば、「体調不良や不安の高い障害者社員が増えてきた」「対面でのコミュニケーションが減少した」。 
 
 
そのような逆境のなか、どうしたら自社の障害者社員に少しでも長く就業し、活躍してもらえるのか、多くの企業の共通の課題といえます。 

5. 離職を防ぐ その1 採用時

離職を防ぐというと、入社後の話を思い浮かべますが、実際には採用段階でできることがあります。

(1)選考過程に職場実習を入れる

応募者に入社後に行う業務を実際にやってもらいます。望ましい日数は3~5日程度でしょう。職場見学で見ているとはいえ、実際にやってみると想像とは違うことがえてしてあります。まずは応募者にイメージと実際のギャップを埋めてもらい、自分は入社したらこの仕事をやるんだと思ってもらうことが重要です。 
 
 
また、採用する企業側では、プロフィールシート等の書類や短時間では見えない応募者の性格や特性、得手・不得手な点等を確認するようにします。 

(2)選考ではスキルだけでなく、就業準備性を確認する

就業準備性とは、「健康管理」「日常生活管理」「対人技能(コミュニケーション)」「基本的労働習慣」「職業適性」の6つです。きちんと毎日出社できなかったり、自分の障害のことを正しく理解・受容していなかったり、周囲とのコミュニケーションが一切取れなかったり、報告・連絡・相談ができなければ、どんなにスキルが高くても、その場所で活躍することは困難です。

(3)支援者から話を聞く

就労移行支援事業所で訓練を受けている方や就労にあたって支援を受けている場合、支援者は応募者のことをよく理解しているはず。応募者が働く職場として、どのような配慮が必要なのか、どのようなコミュニケーションの取り方をすれば、応募者が不安なく働けるのか、調子が悪くなった際にどのような対応を取ればよいか、等確認できるはずです。

資料4 就業準備性

(出典:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「就業支援ハンドブック」より引用)

6. 離職を防ぐ その2 入社後のマネジメント

(1)体調管理を記録する

主に精神障害のある方は日々体調や気分に波があり、それが仕事にも影響します。 
毎日の体調を記録することは、体調の悪くなるタイミングを知ることができ、対処方法が見えてくるようになります。 

(2)業務指示

① 業務指示は書面で。手順書も用意する。 
障害者の離職率を下げるために忘れがちなのが「指示の分かりやすさ」です。職種により業務フローは異なりますが、雇用した障害者に担当してもらう業務は作業工程や手順書などを用意したほうがよいでしょう。作業が明確になるため、就労する障害者が混乱することを防ぎ、業務の効率化も望めます。 
 
 
② 指示を出す人を決める。 
いろいろな人から仕事の指示がでる、指示の内容が人によって違う、複数の仕事を指示されて優先順位が立てられない、といったことはする元です。 

(3)定期的な面談

体調の確認や業務日報と併せて「定期的な面談」も離職防止にはよいことです。業務日報だけでは伝えきれないことや会社として伝えるべき点を対面で話すことで、双方の認識にズレが無いか確認できるメリットがあります。 

・人間関係や業務で困っていることはないか 
・業務日報で気になった点などを確認してみる 
・その他、作業進捗や改善すべき点を話し合う 
  1回の時間は短くても、回数を行うことをおススメします。 

(4)社内の理解

障害者雇用は、採用担当者と就労する障害者本人だけではなく「社内理解」も重要です。採用後は人事担当者やマネジメント担当者だけが配慮するのではなく、周囲のサポートも必要になります。事前の周知や障害者雇用に関する研修を行っていれば、いざ障害者を雇用した後、周囲のバックアップにより離職率を下げる効果が見込めます。 
 
※障害の状況をどこまで共有すべきか 
雇用した障害者の障害特性や必要な配慮に関して、配属部署へ共有する際に、どこまでの情報を開示・共有すべきか、チームメンバーにどのように理解をしてもらうかはなかなか難しい課題です。 
 
 
必要なことは、障害の名称を共有するのではなく、業務を遂行する上で支障となることは何か、と、そのための配慮の仕方を共有することです。業務に支障のないことは、必ずしも共有する必要はありません。配慮がないと業務を進めるうえで支障が出る可能性があることを周知したうえで、配慮の具体的な内容を、人事あるいは所属長からマネジメント担当者、いっしょに仕事をすることになる人に伝えましょう。 
 
 
その際は、事前に障害者本人と相談し、障害者本人が仕事をしやすくするという目的と誰にどこまで開示するか確認して進めましよう。 

7. 離職を防ぐ その3  支援者との連携 

障害者が長期的に安定した就業を行うためには、就業時間だけでなく、毎日の生活面での安定も重要になります。しかしながら、企業が社員の就業時間以外の生活面についてサポートすることは困難です。その生活面について、また就業面でのサポートをしてくれるのがいわゆる「支援機関」と呼ばれる機関です。主に以下のような組織があります。

(1)障害者就業・生活支援センター

障害者就業・生活支援センターは、障害者の職業生活における自立を図るため、雇用、保健、福祉、教育等の関係機関との連携の下、障害者の身近な地域において就業面及び生活面における一体的な支援を行い、障害者の雇用の促進及び安定を図ることを目的として、全国に設置されています。 

(2)地域障害者職業センター

地域障害者職業センターでは障害者に対する専門的な職業リハビリテーションサービス、事業主に対する障害者の雇用管理に関する相談・援助、地域の関係機関に対する助言・援助を実施しています。

(3)就労移行支援機関

障害のある方の社会参加をサポートするために制定された「障害者総合支援法」に基づいて運営されている通所型の福祉サービスです。一般企業への就職を目指す障害者に対し、主に「職業訓練の提供」と「就職活動の支援」によって就職をサポートしています。事業所によっては、就職後3年6か月までの「就労定着支援」をサポートしているところもあります。 

8.まとめ

障害者雇用の離職率はどれくらいなのか、職場定着のポイントについて解説してきました。障害者が離職する理由として挙げられる点は、「職場の雰囲気・人間関係」、「賃金、労働条件」、「仕事内容があわない」ということです。これらを解決するためのポイントは、企業と本人の両方の努力が必要です。 
障害をもつ社員とコミュニケーションをとり、支援機関とも連携する、本人も自分の障害を受容し、体調の波をできるだけ小さくするよう努力する。お互いが努力することで定着の先の活躍を目指しましょう。 

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