精神障害者の雇用義務化とは?障害者採用の法定雇用率の計算方法は?

この記事の内容

1. 導入 
2. 企業はなぜ障害者雇用を行わなくてはならないのか 
3. 法定雇用率制度を知ろう 
4. 自社で雇用する必要のある障害者の人数を計算するには 
5. 法定雇用率制度と併せて知っておきたい制度 
6. 障害者雇用率制度の対象となる「障害者」とは? 
7. 精神障害者も雇用義務化の対象に 
8. まとめ 

1. 導入

はじめて障害者採用を行う企業の人事担当者や、はじめて障害者採用の担当となった方からは、まとまった情報を得るのが難しい、という声も聞かれます。 
 
ここでは、 
 
なぜ、障害者雇用が義務として定められているのか? 
障害者採用・雇用に関わる制度には、どんな制度があるのか? 
自社は何人、障害者採用を行えばいいのか? 
どんな人を対象に障害者採用を行えばいいのか? 
 
はじめて障害者採用を行う人事の担当者、はじめて障害者採用の担当者になった人に向けて、知っておきたいことをまとめました。 

2. 企業はなぜ障害者雇用を行わなくてはならないのか

そもそも、企業はなぜ、障害者を雇用しなくてはならないのでしょうか?

「障害者雇用促進法」には、民間企業の事業主が障害者を雇用する責務について、次のように定められています。

(一般事業主の雇用義務等)
第四十三条 事業主(常時雇用する労働者(以下単に「労働者」という。)を雇用する事業主をいい、国及び地方公共団体を除く。次章及び第八十一条の二を除き、以下同じ。)は、厚生労働省令で定める雇用関係の変動がある場合には、その雇用する対象障害者である労働者の数が、その雇用する労働者の数に障害者雇用率を乗じて得た数(その数に一人未満の端数があるときは、その端数は、切り捨てる。第四十六条第一項において「法定雇用障害者数」という。)以上であるようにしなければならない。


この「障害者雇用率」を軸とした、障害者雇用に関する一連の制度を「障害者雇用率制度」といいます。詳しくは、次項以降でお話しします。

なお、「常時雇用する労働者」とは、次のように定められています。

■常時雇用している労働者の定義
・期間の定めのない労働者
・期間の定めのある労働者のうち、事実上1年を超えて雇用されている労働者
・期間の定めのある労働者のうち、1年を超えて雇用されることが見込まれる労働者
・上記に該当する20時間以上30時間未満の労働時間のパートタイマー(短時間労働者)

なお、1週間の所定労働時間が20時間未満の労働者については、障害者雇用率制度上の常用雇用労働者の範囲には含まれません。

3. 障害者雇用率制度を知ろう

障害者雇用率制度とは、障害者雇用に関する、以下のような項目で構成されています。 
 
・雇用義務(法定雇用率) 
・障害者雇用納付金制度 
・行政指導・企業名公表 
・除外率制度 
 
まず、雇用義務(法定雇用率)について見ていきましょう。 
 
前項でお話しした通り、民間企業、国、地方公共団体は、「常時雇用する労働者数」の一定の割合に相当する人数以上、障害者採用を行い、雇用することが義務付けられています。 
この割合を「法定雇用率」といいます。 
企業、国、地方公共団体の法定雇用率は、次のように定められています。 
 
■企業・団体別の法定雇用率(令和3年3月1日現在) 
民間企業 ・・・2.3%(対象労働者数43.5人以上の規模) 
特殊法人・独立行政法人 ・・・2.6%(対象労働者数38人以上の規模) 
国・地方公共団体 ・・・2.6%(除外職員を除く職員数38人以上の機関) 
都道府県等の教育委員会 ・・・2.5%(除外職員を除く職員数41人以上の機関) 
 
また、法定雇用率は原則5年ごとに算定し、見直すことになっています。 
算定のされ方は、次のようになります。 

4. 自社で雇用する必要のある障害者の人数を計算するには

自社が法定雇用率を満たしているか否か、あと何人障害者採用を行わなければならないのかを調べるには、法定雇用障害者数や実雇用率を算出します。 
 
自社の法定雇用障害者数は以下の計算方法で求めます 

実雇用率は以下の計算方法で求めます

前述のとおり、原則として、常用労働者が算定の対象です。 
・重度身体障害者、重度知的障害者については、1名を2名として計算(ダブルカウント制)します。精神障害者にはダブルカウント制は適用しません。 
・短時間労働者の重度身体障害者、重度知的障害者は、1名として計算されます。 
・1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満である短時間労働者については、1人をもって0.5人の労働者とみなされます。 
・短時間労働者の精神障害者については、新規雇い入れから3年以内または精神障害者保健福祉手帳を取得してから3年以内であり、かつ令和5年3月31日までに雇い入れられていて令和5年3月31日までに精神障害者保健福祉手帳を取得している場合は、1名として計算します。 
・実雇用率の算定は企業単位です。複数の事業所(本店、支店、工場等)を有する企業は全社分を合計します。 

《障害種別と労働時間別カウント表》
※令和5年3月まで、特例措置として短時間労働者の精神障害者を1カウントと数えられます。

5. 法定雇用率制度と併せて知っておきたい制度

次に、障害者採用にあたり知っておきたい、法定雇用率制度と一連にある制度や仕組みをご紹介しましょう。

1. 障害者雇用納付金制度

法定雇用率を満たせなかった企業は、法定雇用障害者数に不足する人数に応じて1人につき月額5万円を「納付金」を支払わなければなりません。 
「罰金」「ペナルティ」と表現することがありますが、実は罰金ではありません。罰金というのはその金銭を納めることで「罪がなかったことにしてもらえる」わけですが、納付金は障害者採用を行い、雇用の義務を果たしている企業と果たしていない企業の経済的な負担を調整するために支払うものです。納付金を納めても、障害者採用を行い、雇用する義務が免除されるわけではありませんので注意が必要です。 
 一方、常時雇用する労働者数が100人を超える事業主で障害者雇用率(2.3%)を超えて障害者採用を行い、雇用している場合は、超えて雇用する人数に応じて1人につき月額2万7,000円の障害者雇用調整金が支給されます。 
 また、常時雇用する労働者が100人以下の事業主で、各月の雇用障害者数の年度間合計数が一定数(各月の常時雇用する労働者数の4%の年度間合計数、または72人のいずれか多い数)を超えて障害者採用を行い、雇用している場合は、その一定数を超えて雇用している人数に2万1,000円を乗じた額の報奨金が支給されます。 
 障害者雇用納付金制度は、事業主による自主申告・納付、自主申請を基本とし、独立行政法人高齢・障害者・求職者雇用支援機構に対して行います。制度の適正運営、経済的負担の平等性の確保などの観点から、「障害者の雇用の促進等に関する法律」第52条の規定に基づき、訪問による調査が行われます。 
 また、障害者雇用率が著しく低い企業、不足人数が多い企業に対しては、管轄のハローワークより指導があります。 
 
 障害者採用を行わず、納付金で済ませるという考え方はコンプライアンス上問題があることを認識しましょう。 

2. 行政指導・企業名公表

毎年6月1日時点の雇用状況をハローワークに報告する「障害者雇用状況報告(通称:ロクイチ報告)」の内容から、障害者雇用の状況が特に悪い企業に対しては行政指導がなされます。その後も改善の見られない企業については「企業名の公表」という社会的制裁を受けることとなります。 
 
行政指導は、管轄の公共職業安定所長および雇用指導官が指導に入ります。 
求人情報提供や面接会参加の勧奨などの実務指導、採用活動報告の要請が都度行われることに加え、必要に応じて労働局幹部による訪問指導も実施されます。 
障害者採用の取り組みが遅れている企業に対しては、厚生労働省への来省が求められ企業幹部および担当責任者への直接指導が行われます。 
 
このように、行政指導は相当の厳しさがありますので、企業は計画的に障害者採用を行っていくことが求められます。 

3. 除外率制度 

かつては、一般的に障害者の就業が困難であると認められる職種を、かなりの割合が占める業種に対して、算定する常用労働者数から控除する「除外率」が定められていましたが、平成16年4月に廃止されました。 
現在は経過措置として、業種ごとに除外率を設定し、廃止の方向で段階的に除外率を引き下げ、縮小することとされています。平成22年7月には一律10ポイントの引き下げが行われました。 

《除外率が適用される主な業種》

その他、除外率の高い業界には道路旅客運送業、小学校の55%、幼稚園60%、船員等による船舶運航等の事業80%などがあります。 
 
除外率の設定された業種であっても、除外率は縮小されていくということを念頭に、障害者採用を行っていきましょう。 

6. 障害者雇用率制度の「障害者」とは?

現行の法律では、一口に「障害者」を定義したものはなく、「身体障害」、「知的障害」、「精神障害(発達障害を含む)」について、それぞれ「身体障害者福祉法」、「知的障害者福祉法」、「精神保健福祉法」で規定しています。  
 
障害者採用・雇用に関しての「障害者」は「障害者雇用促進法」等で、それぞれ以下のように規定されています。  
 
 ●障害者  
 「障害者」は、「身体障害、知的障害又は精神障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者をいう」とされています。 
つまり、障害の種類や手帳の有無を問わず、職業生活上の困難を抱えている、すべての種類の障害者が、この法律の対象となります。  

 ●身体障害者  
 「身体障害者」は、視覚障害、聴覚・言語障害、肢体不自由、内部障害がある人をいいます。
具体的には、身体障害者障害程度等級表の1~6級までの人、および7級に掲げる障害が2以上重複している人をいいます。 
そのうち1~2級に該当する人、または3級に該当する障害を2以上重複していることで2級とされる人は「重度身体障害者」とされます。
「重度身体障害者」の雇用率の算定にあたっては、1人を2人の障害者とみなすことができるなどの特別措置が取られています。 身体障害者であることの確認は「身体障害者手帳」の所持、または規定の診断書によってなされます。  

 ●知的障害者  
 「知的障害者」は「障害者のうち、知的な障害をもつ者であって厚生労働省令で定める者」をいいます。  
 そのうち「重度知的障害者」は「知的障害者のうち、知的障害の程度が重い者であって厚生労働省令で定める者」をいい、「重度知的障害者」も雇用率の算定にあたっては、1人を2人の障害者とみなすことができるなどの特別措置が取られています。
 知的障害者であることの確認は「療育手帳」の所持、または知的障害者判定機関が交付する判定書によってなされます。  

 ●精神障害者  
 「精神障害者」とは、「精神障害がある者であって、厚生労働省令で定める者」とされています。 
この「厚生労働省令で定める者」とは、「精神保健福祉法の定めにより精神障害者保健福祉手帳を交付されている者」、または「統合失調症、躁鬱病またはてんかんにかかっている者」で「症状が安定し就労が可能な状態にある者」のことをいいます。 
なお、精神障害については、雇用率の算定にかかわる「重度判定」の規定はありません。  

 ●発達障害者  
 「発達障害者」とは、障害者のうち発達障害のある者であって、精神障害者保険福祉手帳の交付を受けている者のことをいいます。発達障害は、発達期(おおむね18歳未満)に様々な原因によって中枢神経系が障害されたために、認知・言語・学習・運動・社会性のスキルの獲得に困難が生じる障害と説明されています。 
 
障害者採用にあたり注意したいのは、障害者雇用率の対象となる障害者は、原則として障害者手帳を持っていることが条件だということです。 

7. 精神障害者も雇用義務化の対象に

精神障害者の雇用義務化とは、精神障害者を必ず雇用しなければいけない、ということではなく、法定雇用率の算定や実雇用率の計算に、精神障害者の人数が正式に含まれることになったということです。 

企業に障害者雇用義務が課せられたのは1976年ですが、当時の雇用率は1.5%、法定雇用率の算定や実雇用率の計算の対象となる、つまり雇用義務のある障害者は身体障害者のみでした。その後の改正によって1998年に知的障害者が加えられ、2018年に精神障害者(発達障害も含む)も加わったのです。 

では、これから障害者採用を始める企業が精神障害者を対象としなくてもよいのかというと、そうとも言い切れません。 
身体障害、知的障害、精神障害の順に雇用義務化が行われてきたということは、今から身体障害、知的障害の障害者採用をしようとしても、すでに就労可能な方は就労されている可能性が高く、新たに障害者採用を行うならば、精神障害者を視野に入れておいたほうがよい、ということです。 
精神障害というと、障害が見えづらく、配慮すべきこともわかりづらいことから、敬遠されることもあるというのが実情です。しかし、精神障害・発達障害の障害者採用を積極的に行い、成果を上げている企業もあります。 
これから障害者採用を行う人事の担当者は、ぜひそういった企業を見学することをお勧めします。 

8. まとめ

いかがでしょうか? 
はじめて障害者採用を行う人事の担当者、はじめて障害者採用の担当者になった人に向けて、知っておきたいことをまとめました。 
 
1. 企業は「常時雇用している人数」に対し定められた割合(=法定雇用率 令和3年現在で2.3%)で障害者採用をしなくてはなりません。 

2. 雇用人数が満たない場合には、不足数1人につき5万円の障害者雇用納付金を納めなくてはなりません。 

3. 障害者雇用納付金を納めても障害者雇用する義務が免除されるわけではありません。 

4. 障害者雇用率を超えて障害者を雇用している場合は、雇用している人数に応じて障害者雇用調整金や報奨金が支払われます。 

5. 「障害者雇用状況報告」にて毎年6月1日時点の雇用状況をハローワークに報告します(通称:ロクイチ報告) 

6. 障害者採用・雇用の状況が特に悪い企業に対しては、行政指導がなされ、その後も改善の見られない企業については「企業名の公表」がされる場合もあります。 

7. 自社が法定雇用率を満たしているか、どれだけ障害者採用を行えばいいのか調べるには、法定雇用障害者数や実雇用率を算出します。 

法定雇用障害者数は以下の計算式で求めます 

実雇用率は以下の計算式で求めます

8. 原則として、週20時間以上の常用労働者で1年を越えて雇用が見込まれる者が算定の対象です。障害の重度、所定労働時間によりカウントが異なります。 
 
企業の障害者採用が活発になり、就労意欲のある障害者の方々の活躍の場が増えることを願っています。 

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